「余命2ヶ月」と宣告されたら、残りの人生をどう生きるか?
そんな重いテーマを突きつけられた主人公と、その家族を、静かにたんたんと、
そして限りないやさしさで描いた作品です。
主人公、アンは、23歳。
可愛い天使のような子供二人と、失業中の夫と共に、
母親の家の隣にある、トレーラー・ハウスで暮らし、夜中に大学で清掃の仕事をして、
生活を支え、働きづめの毎日を送っています。
ある日、体の不調で検査をしたところ、不治の病におかされ、
余命あと2ヶ月と宣告されるところから、この映画はスタートします。
子供が二人いたとしても、彼女はまだ、たったの23歳。
彼女の生活に無縁だったはずの「死」が、突然現れたからといって、
簡単に受け入れることもできないし、
誰にも相談出来ず、
呆然としながらも、忙しい日常生活をこなしていきます。
彼女は17歳の時、ニルヴァーナのラスト・ライブで出会った男と
キスをし、結婚。
あっという間に子供が産まれ、それはそれで幸せだったけれど、
本当に自分が人生で果たしたかった夢は、全部あきらめてきたことに、
今さらながらに、驚きます。
おまけに、親との関係も最悪でした。
両親の結婚生活は破綻し、父親は刑務所にいるし、
母親は、我が身に受けた不幸を乗り越えることができず、
いつまでも恨みがましいことを口にしては、
自分がいかに家族のせいで犠牲になったかを、
何度も繰り返しグチっては、娘を苦しませることしかできません。
親友はと言えば、一日中、痩せることだけを考えながら、食べ続けているし、
おまけに自分は23歳で、子供も小さいのに、余命2ヶ月・・・?!
そんな風に、幸福とは言い難い、短い自分の歴史を振り返り、
ある夜、コーヒーショップで、考えをまとめるために、ノートを開きます。
そして彼女は、せめて死ぬまでにやっておきたいことを、リストアップしていくのです。
まずは、愛する娘に、毎日、『愛してる』と言うこと。
娘たちに、新しい母親を捜すこと。
刑務所にいる父に会いにいくこと・・・。
そうやって考えていくうちに、彼女は、ハメをはずして遊んだこともないし、
夫以外の男性と、激しい恋に落ちたこともないことに気づきます。
『恋どころか、わたしは自分の人生をちゃんと生きてきたのかしら?』
そんな疑問まで浮かんできつつ、まずは髪型を変えようと、
美容院に飛び込みます。
髪型は変えなかったけれど、恋する男性には出会いました。
恋をして、秘密を一つ持つことで、彼女の世界は一変します。
彼女の人生が、変わったわけではありません。
単調で退屈だった自分の暮らしや、回りにいる人達のことを、
今までとは違う角度から、見るようになったのです。
そして、スクリーンを見ている私も、彼女の視線と一つになっていきます。
彼女の新しい視点で眺めると、
アンの母親も、父親も、恋人も親友も、
みんな痛みを抱えていて、孤独です。
その孤独感は、家族や友人がいても、癒すことはできないし、閉鎖的でもあるけれど、
絶望的、ではなさそう。
死にゆく人の目で眺めると、痛みを抱えて生きること、
人生に傷があることは、
ステキとは言えないまでも、その人をその人らしくしている、
いとおしい傷に見えてくるのです。
傷を抱えて生きていくことは、切ないけれど、悪いことではないじゃないの。
アンの目を通して、いくつかのダメな人生を眺めながら、
そんな、やさしい気持ちになっていく自分が、不思議でした。
そしてアンもまた、新しい視点で、ささやかな自分の人生を眺めなおすことになります。
劇的なことは、何一つ起こらないのに、
生きていることは、こんなにもやさしい光に満ちているのだと、
いつまでも、いつまでも、暖かい気持ちにさせてくれる、すばらしい作品でした。