イギリスの監督、マイク・リーの最新作です。
ちょっと、上のバナナの絵をクリックして、
公式サイトの表紙だけ見てください。
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トップ・ページを見ていただければお分かりのように、
今回の主人公となる一家は、
おデブちゃんの娘と息子のいる、冴えない、
くたびれきった家庭で、
しかも全員が孤独で、疎外感を感じながら生きているという、
日本でもよくある、やや救いのない家族の物語です。
父親のフィルは、ロンドンのタクシー運転手で、
昔は愛情が満ちあふれていた家族だったのに、
最近は、妻から愛されてもいないし、尊敬されてもいないことを悩んでいます。
その上、客を乗せて、ぐるぐる回っているだけの日常にも、
すっかり嫌気がさしている、この頃。
妻、ペニーは、家計を助けるため、スーパーでレジ打ちのアルバイトをしてますが、
やはり夫と同じで、暮らしに楽しみはなく、希望もありません。
今は、息子の反抗が悩みの種ですが、夫が何も言わないどころか、
家にある小銭を拾い集め、娘からも金を借りたりしている姿を見ては、
情けなく思い、孤独感の中に引きこもっています。
娘、レイチェルは、太っていて、美人でもないですが、誰よりもやさしい娘で、
老人ホームで働きながら、家族の中に流れる
冷たい空気を感じつつも、
自分の感情を押し殺して耐えながら、家族を見守っています。
息子、ローリーは、太った身体を友人達から、からかわれていることもあり、
学校にも行かないし、働きもせず、思春期のヤリ場のない気持ちを
母親にぶつけるだけの、情けない毎日を過ごしています。
この停滞しきった家族に、ある日、事件が起こります。
息子が病気で、突然倒れたのです。
その事件をきっかけに、家族のメンバーそれぞれが、
少しずつ自分の感情をぶつけ出すことで、
今まで顧みることのなかった、自分の心も深く見つめることになり、
もう一度、家族の絆を取り戻していく、というのが、軸になるストーリーです。
さて、ここまでは、よくあるストーリーじゃない?と、お思いでしょう。
しかし、この映画のおもしろいところは、
この監督の映画づくりそのものにあります。
実は、この映画を撮影する前に、台本は一切なく、
以上のような役柄と、大まかなストーリーが設定されているだけでした。
この状況に放り込まれた俳優たちは、監督と共に、
半年間のリハーサルと、ディスカッションを重ねながら、
即興で演じつつ、
撮影していったのだそうです。
つまり、このシチュエーションで、こういう人物だったら、
どんなセリフを言うのか、
この後、どう行動するのか、ということを、
俳優自身が、自分の心と肉体を通して、形にしていったのです。
こういうユニークな撮り方は、真の意味で、俳優の力量が問われるでしょうが、
俳優たちの努力は、すばらしい効果を映像に与えています。
なぜなら、にじみ出てくる言葉や仕草に、誠実で、リアルな感情がこめられ、
それぞれの立場で語る気持ちが、一つ一つ、こちらの心の奥深くまで、
きちんと着地し、揺さぶってくるからです。
たとえば、一言もセリフのない場面でも、視線をちょっと揺らしただけで、
その人物の孤独感、相手をなじることしかできない弱さ、ふがいなさ、
やさしさや拒絶、困惑、不安などなど、心の中の葛藤が、
そして、一人ぼっちでいるから寂しいのではなく、
一緒に暮らしているのに、理解し合えないから寂しいんだ、という事が、
手に取るように、しっかり伝わってくるのです。
どんなに平凡な人生でも、生きていくことに、困難はつきものです。
それでも、人生は続いていきます。
誰もが、与えられた運命の中で、生きていくより仕方ないし、
退屈だったり孤独だったりするからこその、
希望だって生まれてくるかもしれない。
そんな、当たり前の生活の裏にある、豊かな人間ドラマを、
すばらしい俳優たちが作り上げた、切なく胸に響く映画です。