ノーテンキでロクでもない、女友達が一人おります。
彼女の本名をここで明かしたからと言って、
友情が壊れるとは思えないし、
何しろFAXも携帯も持たないほど、文明から離れて暮らしてる奴なので、
絶対にこのページを読むことはない! とは思うけれど、誰かがうっかり口をすべらすと、
妄想癖があるので、とんでもなくやっかいな結果をもたらすといかん。
なのでやっぱり、本名でなく、仮の名で呼ぶことにいたしました。
その名も、"シゲ"。
ある日、別の友人から、わたしの家に電話がありました。
『あのなぁ、誰かがシゲに、「アメリ」に似てるって言ったらしくてな、
シゲがみんなに、「アメリ」見ろ、見ろ!って、宣伝して回ってるデ』
『はぁ・・・・・・・・・・?』
シゲが、「アメリ」に似てるだとぉ???
どこのどいつじゃ!そげな罪なことを言った奴はっ!
確かに、シゲの顔は、「ミミズク顔」というか、ムーミンのミー系、目力のある部類です。
世界中の人間を大きく二つに分ければ、そりゃ「アメリ顔」に
入ることでしょうよ。
それに、妄想癖があることも、やや不気味な隣人と友達づきあいができるのも、
アメリに似てるって言えば、似てなくもない。
でもシゲは、若くて内気なヒヨっ子じゃないし、恋に奥手なんかじゃ、ぜんぜんあらへんデ!
何しろ、よくできたダンナがいるってのに、他の男に恋しちゃって、
『好っきやぁ〜、あの人、好っきやねん。
通りでチラッと見かけた
だけで、もう倒れそうに好きやぁ〜!』(倒れてろ)
と、大声でわめいちゃうような、トホホ女。
さて、本物のアメリは、22歳。
かわいらしいフランス女性で、
若い頃のジュリエット・ビノシュに似た感じの、
子供の光りが宿る目の表情が、生き生きとした、小鳥のような印象の顔立ち。
ただし、娘に無関心な冷たい両親を持ったことと、学校にも
行かなかったせいで、
子供の空想癖をひきずったまま、大人になってしまいました。
つまり、感情のキャチボールをして、人と深く係わりながら、
人間関係を築き上げていく、
っていう土台がないまま、大人になっちゃった女の子。
一人で水切りをして遊ぶのが大好きで、古いアパートに住み、
モンマルトルのカフェで働くアメリは、
売れない作家や、別れた女につきまとう偏執男、
指をポキポキ鳴らす女、
ルノアールの模写だけを続ける孤独な老人などなど、
不思議な人に囲まれながらも、楽しく静かに、空想の世界で暮らしています。
ところがフトしたことから、しがない中年男に少年のこころを思い出させ、
ハッピーにしてしまったことが、アメリの「幸せにしたい病」に
火を点けちゃいました。
そしてその病が、アメリを現実のハッピーな世界へと、導いていくことになるのです。
それからの彼女は、頼まれもしないのに、非常に積極的に、
でも絶対に自分の姿は見せないで、小さなイタズラをしかけ、
回りの人々に、小さな幸せをプレゼントしていきます。
で、それが成功すると、ますますその「プロジェクトX」に夢中になっていく。
でもって、そのイタズラの最中に、な、な、何と!
初めて、心ときめく男性とも出会うんだけど、内気なアメリは、
自分の恋には、奥手で何もできない。
というか、自分の姿は見せずに、こっそりアプローチしていくことはできても、
相手からの積極的なアプローチには、どう対処していいか分からず、
せっかくのチャンスをものにもできず、こころのドアを、また閉ざしてしまう。
あぁ、はがゆいぞっ、アメリ!
この映画、パリはモンマルトルが舞台だし、
怪しくレトロで、おしゃれな雰囲気もウケたんだろうけれど、それだけじゃなかった。
まだうら若い女の子だった時期がある女性なら、誰だって、
このはにかむような、内向する思い、覚えがあるはずです。
眠れない夜、ひざを抱えて、ぼんやりお月様をながめて泣きたいような、
くすぐったく、頼りない気分を、このわたしだって、懐かしく思い出しましたとも。
だからこそ、まさにアメリ世代の女の子が、自己投影しちゃうのは、うなづけます。
でも、みなさん。
女って、本質的に内気じゃないし、ふわふわもしてませんのよ。
本当にナイーブで、何もできない男というのは、たくさん見てきたけれど、
そういう女なんて、あたしゃ会ったことはありません。(きっぱり)
基本的に女は、心も体も頑丈にできてるし、男よりタフで長生き。
ただし、強くて頑丈な自分を見いだすには、やっぱり他人様が必要で、
友達や恋人との、深いつき合いを通して、
手探りで、見つけていくより他ありません。
あっちの岩や、こっちの壁に、頭をガンガンぶつけながら、
女として人間としての、どすこい魂を手に入れ、自分を知り、他人を受け入れていく。
やがて、自分だけのささやかな幸せを、誰かと分かち合ったり、築いたりしていくのよね。
つまり、本当の幸せって、アメリのイタズラのように、一方通行なんかじゃない。
相手の差し出す感情も、ちゃんと自分の手に取ってみなくちゃ始まらない。
スクリーンの中で、小さな自分の幸せを手にするまでの、アメリ嬢の葛藤は、
大人になるための、イニシエーションみたいなもの。
若い女性でいっぱいの映画館で、スレ違った、
ストロング・ウーマン予備軍の、
ちょっとばかり内気で、不器用そうにみえる
女の子たちはきっと、
「わたしもアメリに似てる」と、思ったことでしょう。
心の中でひっそり思ってる分には、許してさしあげます。
しかし、シゲよ。おまえのは完全なる勘違いだっ!
あんたほど、ズーズーしくて強い女、みたことないわいっ!
今度会ったら、黙って後ろから、蹴り入れることにいたします。
でも、ナイーブなこころを隠しきれないわたくしが、水切り用の平べったい石を見つけて、
こっそりポケットに忍ばせたとしても、誰も叩いたりしないでください。
(それと、「ブーちゃんのスタンド」、どこで手に入るんでしょうか?どなたか教えてくださいませ)