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<<チャドルと生きる>>
〜The Circle〜 

開かない窓

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真っ黒なスクリーンの向こうから、女性の声だけが聞こえてきます。
 「腰をおろして」 「前へ?」
 「ひどく痛い?」 「・・・・・」
その後は、女性のうめき声と、叫び声だけが続き、
やがて、小さな赤ん坊の産声が聞こえてきます。
すると、スクリーンは白い光に満ち、分娩室と待合室とをつなぐ、白い小窓が開いて、
若い看護婦が、外の女性に言います。
「女の子ですよ」

それを聞いた、赤ん坊の祖母らしい女性は、突然おろおろと尋ねます。
「もう一度教えて、本当に女の子なの? 検査では、男の子だと言われたのに」
でも、若い看護婦は、にこにこと、「女の子ですよ、おめでとう」
そう言って、サッと小窓を閉めてしまいます。
取り残された祖母は、「女の子じゃ、離縁される」 と、途方にくれるのです。

女性である私としては、「女で悪ぅござんしたね」 と思うと同時に、
生まれたての赤ちゃんの行く末に、一抹の不安も感じ、
ンググッと、静かに奥歯をかみしめるファースト・シーンでした。

この映画の舞台は、イランの首都、テヘラン。
監督は、純真な少女の姿を描いた『白い風船』 でデビューした、ジャファル・パナヒ。
これまでのテーマや作風を一新し、現代イラン社会の女性の現実を描いたこの作品で、
ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞するなど、高い評価を得た作品ですが、
タブーであるはずの、「売春」や「不倫」のにおいがするからか、
本国では、上映禁止のままです。

カメラは、先ほどの祖母が、別の娘に、叔父を呼びに行かせるところから、
外の公衆電話を独占している三人の女性の姿へと、自然に移っていき、
ストーリーは、リレーのように受け継がれる形で、続いていきます。
実は、この三人組は、何らかの事情で、刑務所に入れられ、仮釈放された身でした。
恋人と家族が待っているはずの故郷へ帰ろうとする、18歳の女性、
故郷に帰っても仕方がないと、ここで生きようとする、中年の女性。
そしてまた彼女たちから、次の女性へと、ストーリーはバトンタッチ されていきます。
結婚もせずに妊娠してしまったため、堕胎しようと刑務所から脱走した女性、
生活苦から子供(女の子)が育てられず、その子を道ばたに捨てようとする女性、
そして、夜を生きる、濃い化粧の娼婦らしき女性。

登場人物の共通点は、まず女であること。
したがって、チャドルという黒い布で、頭から全身をしっかりおおい隠していること、
事情は不明だけれど、少しだけ、まっとうな道からはずれ、
男の庇護の元ではなく、たった一人で生きているらしいこと。
そんな彼女たちのストーリーを見ているだけで、
現代のイランの女性の立場が、明確に伝わってきて、
ますます奥歯をかみしめることになります。

少ないお金を手に、やっと故郷に向かうバスに乗ろうとしても、
学生証も、身分証もない女に、一人旅など許されず、発券も してもらえないこと。
誰も頼れず、やっとの思いで実家に辿り着いても、
家の恥だと、実の兄に、さんざんののしられた上に、家を追い出されること。
考え抜いたすえに、妊娠してしまった子を堕胎しようとしても、
夫か、父の承諾書がないと、何もしてもらえないし、援助もないこと。
夜、泊まるところがなくても、ホテルにさえ簡単には宿泊できないこと。
生活に困り果て、仕方なく、男の誘う車に乗っても、
取り締まりにあえば、男は何とか言い逃れができるのに、
女は一言の弁解も許されず、さっさと処罰されること。
女は外で、煙草を吸えないこと、などなど・・・・・。

やりきれないのは、自殺したらしい女性が、病院に運び込まれると、
その病院にいた、同性である女たちの口から、次々に、
「家族の恥だ」 という言葉が漏れることです。
つまり、どんなクズであろうと、男と一緒にいれば人間として扱われるけれど、
女性一人では、何の権利もないし、生きることさえ許されない。
しかも、前に進む道が断たれた場合、援護してくれはずの家族も、
また、同じ痛みを分かち合えるはずの女性からも、冷たくののしられ、
背後からも攻撃されるということ。

彼女たちが、どんな罪を犯したのかは、分かりませんが、
おそらくは、 ごくごく普通に暮らしてきた女性たちだったはずです。
ちょっと道をはずれただけで、もう二度と元の場所に戻れないだけでなく、
更正の道すらないというのは、あまりに酷い現実です。
それでも、たくましく生きていくことを選択するならば、
原題の『The Circle』の通り、間違っていると分かっていても、
同じ道を進むという、堂々巡りをするしかないのでしょうか。

ラスト近く、これから結婚式を挙げる、若い花嫁のうれしそうな笑顔を、
暗闇に立つ娼婦が、ジッと見つめるシーンがあります。
かつての自分の姿を思い出しているのか、
あるいは、美しい笑顔が、やがては醜くゆがむ未来を見ているのか、
娼婦の瞳には、静かな哀しみの色しかありません。
けれども、その強いまなざしを見ていると、
この過酷な女性差別を、社会や宗教だけで判断するのではなく、
同じ女性として、同じ時代にこの地球に生まれた者として、まず知ること、
そして、自分のこととして考えることが大事だと、 思わされるのでした。

                                        −writing by 吉田 妃呂−

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