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<<ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ>>
〜HEADWIG AND THE ANGRYINCH〜

愛の起源

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タイトルの意味は何?と、まず疑問に思われることでしょう。
「ヘドウィグと怒りの1インチ」ですってぇ???
この1インチとは、股間に残ってしまった、アレのことなんですの。
あらっ、まぁ、はしたない!と、パスしてしまわないでくださいね。
この映画、実は「愛」と「自己の再生」の物語なんですから。

この映画の主人公、ヘドウィグは、東ドイツのハンセルという名前の坊やでした。
母親と二人暮らしで、アメリカのロックが大好き!
いつもオーブンに、頭とラジオを 突っ込んでは、聞き惚れております。
そんな彼の夢は、自由の国アメリカに渡り、ロック・スターになること!

ある日、彼は母親から、プラトンの「愛の起源」の物語を聞き、
その寓話のとりことなっていきます。
その物語とは、

 人間は元々、二組の手足、二つの頭、二対の身体が 一つになった生き物だった。
 でも、神は、あまりに完全無欠な存在となった人間を恐れ、 二つに引き裂いてしまう。
 以来、人間は、その原初の姿に還ろうとして、自分の"失われた カタワレ"を
 求めてさまようことになった。
 その求め合いが、「エロス」の始まりで、出会った時に芽生える 感情が、「愛」なのだと。

ステキなお話だけど、「エロス」とか「愛」という言葉、危険をはらんでおります。

美しい青年へと成長したハンセルは、ある米兵と出会い、恋に落ち、アメリカに渡る ことに。
でも、彼と結婚するためには、 性転換手術を受けなければならない!
しかし手術ミスで、股間にはアングリーインチが、無惨にも 残ってしまったのだぁ〜!
あぁ、悲惨!でも、この設定、かわいそうだけど、けっこう笑えます。
もう運命そのものが、不条理で、ロックそのものって感じ!

さて、愛するダーリンと渡米し、ヘドウィグという女に 変わった<彼女>に、
試練は続くよ、どこまでも。
我らがヘドウィグは、あっさり捨てられちゃうのです。
しかも、離婚して意気消沈している彼女に、追い打ちをかけるように、
テレビには、東西ドイツを分断していた、ベルリンの壁の倒壊シーンがっ!
性転換手術まで受けて、はるばるアメリカに自由を求めて来たというのにぃ!
何これ?
こ、こ、こんな馬鹿げた話し、あたし、あたし、聞いてないわよぉ〜っ!!!

と、怒りまくったところで、誰も助けてはくれない。
もうこうなったら、ロック・スターを目指すしかないわっ!と、
ヘドウィグは、しがないドサ回りを始めたところで、 17歳の少年、トミーと運命の出会いが。
今度こそ、今度こそ、彼がわたしのカタワレだわっ!と、 愛のすべてを捧げるヘドウィグ。
でも悲しいかな、やっぱり、彼女は裏切られる。
しかも今度は、ヘドウィグの魂とも言うべき、オリジナル曲すべてを盗まれ、
何と、トミーはその曲で、本物のロック・スターになってしまうのだっ!

ああっ!どこまでも、彼女の運命は悲惨!しかも、むごいほどに、おかしい!
それがかえって、悔しい!切ない!もう心はドロドロ!
とことん裏切られたヘドウィグは、自分のバンド「アングリーインチ」を 引き連れて、
全米ツアー中のトミーを、がむしゃらにストーカーして回ります。
というか、嫌がらせの道しかないほどに、自由の国で、行き場を失ってしまった。

そんなヘドウィグの、情けなくて、憐れで滑稽で、 ド演歌になりそうな失恋話が、
なぜかすがすがしいほどに真っ直ぐで、 純粋な物語に思えてくるのは、
ヘドウィグを演じ、監督も務める ジョン・キャメロン・ミッチェルの脚本のうまさと、
何より彼女らのバンドが生む、 ロック・ミュージックのすばらしさにあります!
細くてきゃしゃな身体から、意外に太いシャウトを全身からみなぎらせ、
スティーブン・トラスクが弾き出す強いビートと共に、
この世の理不尽を粉砕するように叩き出す、激しいロック魂!
一度とりこになったら、「ヘドヘッド」と呼ばれる、熱狂的ファンになるに違いありません!
しかし、こんなに才能豊かなヘドウィグなのに、なぜか客が集まらない。
小雨の野外ライブに、妙ちくりんなお姉ちゃんが一人、ということもありました。

それには、きっと深い理由があるのでしょう。
だって、自分が不完全だから、その欠けた部分を補うために 誰かを探すって、不純だもの。
「わたしたち、二人で一つね」、っていうプラトンのおとぎ話は、
実現するならば、うっとりするような夢物語だけど、
一歩間違うと、究極の思いこみというか、 単なる、自己完結なんとちゃいますか?
という気がして、嘘くさいんだもの。
それって、本当の愛?本当のロック魂?

ただただ、愛の寓話を信じて突き進んできたヘドウィグも、
次第に、その疑問が頭をかすめるようになります。
信じた愛のために、国境を超え、性別を超え、アングリーインチを ぶらさげたまま、
音楽という宝物を携えて、ここまでやってきた。
そして最後に超えるべき壁は、アメリカほど遠い場所ではなく、
ずっと一緒にいたはずの、自分自身だったことに、 気づくヘドウィグ。
そこには、受け入れ難い、不完全な自分、 ありのままの自分が、ポツンといるのです。

ラスト・シーンの、弱々しいけれど、本当にピュアで美しい ヘドウィグを、
あなたの目でも確認してください。
彼が、最後に何を手にするのかを。

大げさなカツラと、刺激的でエキセントリックなクィーン・ファッションも、ステキです。
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                                        −writing by 吉田 妃呂−

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