◆◇◆Save Our Souls 我らが魂を救え!◆◇◆


<<過去のない男>>
〜mies vailla menneisyytta〜

2002年カンヌ国際映画祭グランプリ・主演女優賞ダブル受賞!
おめでとう!おめでとう!おめでとう!

ハンニバル

↑オフィシャル・サイトは、ここをクリック!

東京都内は、恵比寿ガーデンシネマにて公開中!
その他の地域は、オフィシャル・サイトをチェック!

フィンランドの監督、アキ・カウリスマキの最新作です。
ストーリーは、身体の大きな、疲れて冴えない表情の中年男が、
電車で、ヘルシンキにやって来るところから始まります。
行くあてもないらしく、駅前のベンチに座って、ウトウトしていると、
3人の若い男に突然襲われ、血だらけになるほど殴られ、
持っている物すべて、盗まれてしまいました。
病院に運ばれ、包帯でグルグル巻きにされた挙げ句、死亡宣告までされるのですが、
突然、ガバッと息を吹き返し、服を着替えて外に出て行きます。
このあたりの、唐突なおかしさは、
これからスクリーンに映るものはすべて、おとぎ話ですよ、と言っているみたいです。

さて、その翌朝、湾岸にたどり着いた男は、コンテナに住む一家に助けられます。
何とか自分で食事をして、煙草が吸えるようになるまで回復するのですが、
実はその男、過去の記憶を一切失ってしまったのでした。
金もなく、仕事もなく、家族もなければ、自分を自分たらしめる過去もないし、
名前まで失ってしまった。
そんな、ないないづくしの男が、貧しい一家の助けによって、
何も持っていなくても、小さな幸福なら、いくらでもあることに気づいていきます。

狭いコンテナを出れば、青空をバックに洗濯物がはためき、
花もうれしそうに咲いています。
家の主人には、週二日だけれど、警備の仕事があり、疲れて帰ってくると、
かわいい二人の子供がお湯を注いでくれる、家内手工業的シャワーもあるのです。
そして金曜日になると、その家の主人に、「ディナーに行こう!」と 誘われ、
ついていってみると、救世軍がバンドつきで、 スープとパンを配っていました。
そこで男は、イルマという孤独な中年女に、一目惚れしてしまいます。
それから、ビールを飲みに行き、コンテナの主人にこう言われます。
『人生は過去には進まん。記憶がなくても大丈夫だ』 と。

過去のない男は、ゆっくりと、今ある人生を生き始めます。
空いているコンテナを借り、きれいに掃除をして、電気を引き込み、
どこかからジューク・ボックスを拾ってきて、音楽のある暮らしを始めます。
さらに男は、小さなイモを植え、救世軍の女イルマを口説き、
いろんな人に助けられながら、新しい洋服と、小さな仕事を得ます。
イルマとも、デートにこぎつけ、一緒に音楽を聴き、キスをして、
イモが育ったのを見ては、ニッコリ微笑むのです。
仕事先の救世軍のバンドが、聖歌隊みたいな湿った曲ばかり演奏するので、
もっとテンポのある曲をレパートリーに加えないかと、 提案したりもします。
そして、バンドマンに、ジュークボックスの曲を聴かせて、 またニッコリ。

疲れ切った中年男の顔に、穏やかな笑顔が現れるようになったところで、
この男は、ある事件に巻き込まれ、一気に過去と身元が判明し、
その過去によって、イルマとの関係もあやうくなるのですが・・・。

このお話の行方は、ゆっくり映画館でみていただくとして、
もう一つ、堪能していただきたいのは、 カウリスマキ映画の特徴である、
数少ない一本調子のセリフと、無表情な俳優たちの、
妙な間合いとズレが生む、ゆる〜い感じのユーモア感覚です。

たとえば、ジューク・ボックスを運びこんだ時、3人のしがない男が、
一緒にスープを飲みながら、音楽を聴くシーンがあります。
その時、過去のない男が、『いい音楽だろ?』 というような感じで目をあげると、
別の男も、『そうだな、なかなかいいじゃないか』、
そんな会話が聞こえてくるような、穏やかな視線のやりとりをします。
それ以外、動きはまったくありません。
バックで流れる音楽は、"ブラインド・レモン・ジェファーソン"「のろまのブルーズ」
ブルーズを聴く人しか知らないような、渋い選曲ですが、
乾いたギターの音とザラザラした感じの声が、孤独なんだけど、暖かく、
言葉などなくても、一緒にいることの楽しさが、しっかり伝わってきて、
カウリスマキ監督のセンスのよさに、グッとくるシーンです。

映画は、最初から最後まで、こんな調子で、
ズレや笑いと、トボケた間合いがいっぱいで、そのリズムに取り込まれていくうちに、
少しずつ、こちらの心もゆるみ出し、
いつのまにか、心地よいやさしさに包まれてしまうのです。

つまるところ、人生でできる最大のことって、
自分と、自分の回り、半径3メートルぐらいで出会う人の幸せのために、
生きていくことなんだなぁ、 なんてことを思いながら、
映画館を出た後もずっと、小さな幸せに酔っていました。

                                             2003.4.13.

                                    −writing by 吉田 妃呂−

戻る




[HOME]
MAIL ←吉田妃呂への
メールはこちらへ!