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<<グッバイ・レーニン>>
〜 GOOD BYE LENIN ! 〜

憧れの西側

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東京都内は、恵比寿ガーデンシネマにて、上映中!
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1989年11月9日、ベルリンの壁が崩壊したというテレビ・ニュースは、
今でも、強烈な映像として、わたしの記憶に残っています。
当時、まだまだ子供で、政治や思想とも無縁だったにもかかわらず、
あの壁の崩壊は、わたしが生きてきた時代の中で、革命的な事件に思えたし、
自由を求めて、世界が大転換を始める、輝かしい奇蹟のように感じられ、
遠いヨーロッパの出来事なのに、とても興奮したことを覚えています。

毎日、同じ映像が流される中、 ごくわずかな評論家や経済学者が、
これから起こるだろう混乱について、静かに語ってはいましたが、
繰り返し流される、お祭り騒ぎのニュースの洪水の中で、
その冷静な声は、老人の心配性的発言としてかき消され、
多くの人々が、壁の崩壊という劇的な事実に酔っていました。

しかし、その後の東ドイツの社会変化は、当然のことながら、
市民の一人一人に、多大な変化を要求し、
個人の願いや思惑などは、簡単に吹き飛ばしてしまうほどの エネルギーで、
それぞれの夢を押しつぶし、自由社会、競争社会へと、突き進んでいきました。
それは、その後のヨーロッパ社会の混乱へと連鎖していったのです。

今回ご紹介する映画、「グッバイ・レーニン」は、
まさにその、ベルリンの壁が崩壊する前後を、時代の変化を正確に再現しながらも、
その変化に翻弄される一人一人の人間に、スポットライトを当てることで、
歴史を、普通の人々の生活から描くことに成功した作品です。

主人公、アレックスは、東ドイツの労働者向けアパートで、
母や姉と一緒に暮らしている青年です。
彼の父親は、10年前、西側に亡命してしまいました。
その後、母クリスティアーネは、教師として働きながら 子供たちを育ててきましたが、
夫の亡命のせいもあり、 必要以上に、社会主義者としての責任と義務に励み、
国家に忠実に生きてきたのです。
その結果、1989年、建国40周年を迎えた東ドイツでは、 華々しい記念式典があり、
クリスティアーネも招かれ、表彰される予定でした。

しかし、同じ日、大きく盛り上がっていた、 民主化を訴える市民の街頭デモも行われ、
たまたまそこを通りかかったクリスティアーネは、
あろうことか、自分の息子アレックスが、そのデモに参加しており、
目の前で警官に逮捕される様子を目撃してしまうのです!
その結果、心臓発作を起こし、彼女は意識不明の昏睡状態に陥るのでした。

それから8ヶ月後・・・・・、彼女は奇跡的に意識を取り戻すのですが、
彼女が眠り続けている間に、ベルリンの壁は崩壊し、
信じ続けてきた、東ドイツという国家は、事実上消滅してしまったのです。
病気から回復したばかりの母に、精神的なショックは致命的だと、
医者に宣告されたアレックスは、東ドイツ消滅の事実を隠すため、
むりやり母を退院させ、嘘をつくために奔走することになります。

家を東ドイツ時代に整え直し、捨ててしまった家具を拾い戻し、
姉にも、東ドイツ時代のダサイ洋服を着るように命令します。
時代の変化に、いち早く順応していく姉は、バーガー・ショップに務め、
新しい恋人と、新しい西側の社会生活に、すっかり親しんでしまったため、
弟アレックスの努力を、苦々しい思いで眺めます。
そんな姉の冷たい視線にも、負けることなく、アレックスは突っ走ります。

スーパーに並んでいる商品も、そっくり様変わりしてしまったため、
母が、ピクルスを食べたいと言えば、
大あわてで、ゴミ箱から、東ドイツ時代のピクルスの空き瓶を拾いに行きます。
そして、ピクルスを詰め直してから、母に渡すのです。
母がテレビを見たいと言えば、新しく出会った西側の友人に手伝ってもらい、
嘘を散りばめた、東ドイツ風のニュース映像をビデオ撮りして、母に見せる始末。

けれども、アレックスの懸命な努力も空しく、新しい時代の波は、防ぎようもなく、
母のベッド・サイドの窓からは、コカコーラの宣伝幕がはためくのが見えてしまうし、
レーニン像も、あっけなく倒されてしまいます。

そんなアレックスの必死の親孝行を、映画はコメディタッチで描き、
大笑いしながら、アレックスの奮闘を追いかけていくことになるのですが、
東ドイツ時代の生活を整えようとすればするほど、
また、社会主義革命が、着々と世界中で進行しているという、
事実とはまったく違うニュースを捏造すればするほど、
大笑いしていたはずなのに、少しずつ、神妙な気分になっていくのでした。

よく考えてみれば、資本主義であろうと、社会主義であろうと、
人が普通に願う、幸せの形に、そう大きな違いがあるわけはないのです。

『わたし達の信じる目標は、他者に手を差しのべること。
そして、大切なものは、善意と労働力』

東ドイツでは成功しなかったスローガンと、
西側の自由な社会であっても、決して存在することがないだろう国の理想が、
アレックスが作る、嘘のニュースの中でだけ存在するのが、
何とも皮肉で、やり切れない気持ちにさせます。

さて、アレックスの健闘によって、母親はずっとだまされていくのかどうか・・・、
それは、映画館で見ていただくとして、
何よりも大切で、かけがえのないもの、
母と子の愛情や、夫婦や家族の絆のすばらしさは、
決して、歴史や時代に押し流されることはないし、
ちっぽけな存在の一人一人も、いとおしい存在として、
お互いを支え合いながら、たくましく生きていくことにも気づかされ、
暖かく、やさしい涙をこぼすのでした。

                                             2004.5.31.

                                    −writing by 吉田 妃呂−

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