都内では、ちょうどお料理をめぐる映画が2本、
ほぼ同時並行して上映されてます。
一本は、超ロングラン上映されている、『ディナーラッシュ』。
もう一本が、今日ご紹介する『マーサの幸せレシピ』。
どちらも、主人公がシェフで、舞台がレストランだから、お料理も楽しめるんだけど、
タイプは、180度違います。
『ディナーラッシュ』は、NYのイタリアン・レストランを舞台に、
ご近所の気さくなリストランテから、
セレブの集まるクールなレストランへの変化、
それと同時に、父から息子への世代交代があり、
元締めなど暗黒街との腐れ縁もあり、
何より殺人が起きて、その復讐もあります。
ハンサムだけど、強引傲慢なスター・シェフと、
賭け狂いのセカンド・シェフ、
ウェイトレス兼アーティストのかっこいい女性もいれば、
博学のバーテンダー、
鼻持ちならない美術評論家に、ヤリ手の料理評論家、・・・。
このレストランに群がる、怪しい人々たちという食材を、
猥雑に、そしてちょいと小粋に料理したストーリー展開で、楽しませてくれます。
そしてラストには、あっと驚く決着があって、ううむむむ・・・。
よしよし、このお父ちゃんはかっこいいぞっ、と思いつつ、
その夜のお食事は、おしゃれなレストランでオマールエビ、なんかじゃなくて、
シンプルなトマト・スパでもつくって、
チョコレート・ケーキでもいただこうかと、
映画とは正反対に、イタリアのママンの食事を思い浮かべる映画でした。
一方『マーサの幸せレシピ』は、ドイツのフレンチ・レストンを舞台に、
オーナーから、「この街で二番目のシェフ」と言われてしまう、
30代前半の天才女性シェフ、マーサを巡る物語。
マーサの腕前は抜群。彼女がつくる料理は完璧。努力も人一倍している。
でも、何かが足りないと、オーナーには思われています。
それは、彼女のあまりの完璧主義からくるのかも?
だって、日頃はファスト・フードしか口にしないに違いない、
ヤボな客に、
フォアグラの火の通し加減で文句を言われると、
厨房からスタスタ出てきて、
「二度と来るな!」と怒鳴っちゃうシェフって、ちょっとね。
(私もやりそうだけど)
だからってマーサは、攻撃的で情熱的な女性ではありません。
それどころか、内向的で、知的、清潔好きで、人と付き合うのが苦手。
(あら、私にそっくり)
あまりに内向的なので、オーナーから、セラピストの所へ通うように
命令されているぐらい。
でも彼女、セラピストの所に行ってまで、料理の話しかしない。
というか、料理を媒介にしないと、話ができないんです。(これは深刻かも)
さて、そんなマーサに事件が起きます。
一つは、姉が突然事故で亡くなり、8歳の娘をしばらく預かることになったこと。
もう一つは、彼女の助手が出産のため休暇を取るので、
その代わりとして、
絵にかいたように陽気なイタリア人シェフが、
彼女の城であり戦場である厨房に、侵入してきたこと。
それでなくても、人付き合いの悪い彼女に、この二つの問題は、
荷が重すぎる。
おまけに、自宅のアパートの下に引っ越してきた男も気になるし・・・。
子供だから何とかなると思った、8歳の娘は、
これがまたマーサそっくりで、気難しく内向的。
母の突然の死に、心を閉ざし、決してマーサの料理を食べようとはしないのです。
おまけにイタリア人のマリオは、平気で遅刻してくるし、
料理中も歌い続けるし、
マーサが完全に支配してきたはずの厨房のリズムも、
彼女自身の生活も、
ぜんぶ乱れっぱなしで、収集つかなくなっていきます。
でもこの先は、タイトル通り。
子供の心に近づいたり、距離を置いたり、また近づいたり、
マリオのことも拒絶したり、スタイルを受け入れたりとしていく中で、
キャリア・ウーマンとして、がっちがちに構築してきた、
仕事へのスタイルも変化し、
ゆがみ、混乱し、やがて彼女が築いてきた中心軸を取り戻すと共に、
その軸が、少しだけ大きくなっていくのです。
だからって彼女の人付き合いが、劇的によくなるわけではありません。
きっと、不器用なまま。
でも、それでもいいじゃないですか。
人と出会って、その人を好きになっていく時、
二人の真ん中あたりに漂っている、「好き」という気持と
一緒に揺れていれば、
幸せなんだもの。
それにしても、やさしく美しいこの映画を見た後も、
急いでフレンチ・レストランに駆け込もうとは、思わなかったのね。
ハウス・ワインを買って、友人の家に行き、
シンプルなアーリオ・オーリオでもつくって、
ワイワイ言いながら、大口開けて笑いたい気分になります。
だって食事が一番おいしく、楽しいのは、
みんなで分け合って食べる時だもの。
それが最高に贅沢な、幸せのレシピ。