◆◇◆Save Our Souls 我らが魂を救え!◆◇◆


<<酔っぱらった馬の時間>>
〜Zamani Baraye Masti Abha〜 

兄さんが買ってくれたノート


東京都内は、渋谷ユーロスペースにて公開中!

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雪で閉ざされた、白一色の厳しい世界を、 少年とラバが必死に歩くシーンの、
圧倒的な美しさに、胸を揺さぶられる映画です。

舞台は、イラクとの国境地帯にある、イランのクルド人の村、サルダブ村。
クルド人とは、2千万人以上いると言われる、
国家を持たない 「世界最大の少数民族」 です。
彼らが住む、トルコ、イラン、イラク、シリアにまたがる
クルディスタンと呼ばれる山岳地帯は、
イラン・イラク戦争でも爆撃された場所であり、
現在もイラン政府に自治と民主化を求めて、 ゲリラ戦を継続している地域です。

この厳しい山岳地帯に住む人々は、
長年の政治的対立、戦争、ゲリラ活動などのせいで、 地雷が多数あるため、
農業もできず、 イランへの密輸によって、生計を立てています。
ふだんは、車で国境越えをするそうですが、 冬場は降雪で車が使用できず、
荷物をラバに背負わせ、子供を雇って付き添わせます。
特に真冬の2ヶ月間は、想像を絶する厳しさで、
寒さと過労から、ラバも山越えできなくなるので、 餌の中にウィスキーを注ぎ、
酔っぱらった状態で、荷物をかつがせ、山を越えさせるのです。
タイトル『酔っぱらった馬の時間』には、おとぎ話のような響きがありますが、
実は、過酷な労働そのものを指しているのです。
(ラバではなく、「馬」になってるのは、語調を考えてのことだそうです)

さてストーリーは、この村に住む一家の子供達を中心に展開されます。
父と、子供5人の一家は、厳しい暮らしの中だからこそ、
みんな仲よく、寄り添って生きていたのですが、
ある日、密輸の仕事に出かけていた父が、 地雷を踏んで死んでしまったことから、
彼らの生活は、ますます困窮していきます。
まだ12、3歳の少年アヨブは、叔父から、
「今日からお前が家長だ。学校はあきらめろ」と言われます。
姉のロジーンは母親代わり、妹のアーマネは勉強が好きでどうしても学校へ行きたい。
そして兄のマディは、難病で成長が止まったまま。
アヨブは何の迷いもなく、学校を辞めます。

さらに、「マディは手術をしないと、あと一ヶ月の命だ」、と医者に言われると、
手術代を稼ぐために、アヨブは密輸品を運ぶキャラバンに加わるのですが、
それは命がけの厳しいものでした。
雪山の道には、地雷や国境警備隊の射撃も待ち構えているのですが、
大人も自分達のことで精一杯で、子供をかばう者など一人もいません。
それでもアヨブは、グチ一つこぼすことなく、黙々と働き、
家では笑顔をたやさず、妹がノートをほしがっていれば、 何とかして手に入れてくるし、
遠くに出かけた時は、マディにプレゼントまで買っていこうとします。
まだ誰かに守られていて当然のはずの彼が、自分のことよりも家族のために、
ひたすら働く姿は、けなげとしか言いようがありません。
けれども手術代を稼ぐことはできず、とうとう姉が手術代のために、
嫁にいくことになるのですが・・・。

この映画の監督、バフマン・ゴバディもまた、クルディスタンに生まれたクルド人です。
現在はイランに住み、アッバス・キアロスタミ監督作品『風が吹くまま』では、
チーフ助監督を務め、『ブラックボード〜背負う人〜』では、
主演俳優として登場したこともある、映画人です。
その彼が撮った、実話に基づいたこの映画は、クルド語を使った最初の映画であり、
また監督自身にとっても、最初の長編作品で、
2001年カンヌ国際映画祭の、カメラドール新人賞を受賞しました。

「クルド人の生活を世界に伝える映画を撮りたい」、という 監督の強い願いは、
過酷な運命に翻弄される子供達の姿を、
寄り添うように追い続けるカメラを通して、ストレートに伝わってきます。
それは厳しい現実だけでなく、兄と妹が顔を見合わせて笑うシーンや、
国境沿いの休憩場で、写真を買い求めるシーンなどの、
ほのぼのと暖かい場面からも、監督のやさしさや 心の痛みが、感じられます。

それにしても、画面いっぱいにあふれるほどの白い世界は、
どうにも逃れられない、子供達の運命と悲しみを 象徴しているようで、
胸が張り裂けそうになります。
けれどもそれは、悲哀の感情だけではありません。
鉄条網が張られた国境を、 冷たい風に切り刻まれながら、アヨブが歩くシーンは、
国境を越えて生きるより他に道がないから、国境を越えるのではなく、
家族のために、その道を自分で選ぶという、決然とした少年の意志によって、
山岳地帯の冬は、ますます美しく痛烈に映し出され、
監督の祈りの結晶のような、圧倒的な映像の力によって、
かけがえのない生命力や、魂の強さを伝えてくれるのです。

                                        −writing by 吉田 妃呂−

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