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<<イン・ディス・ワールド>>
〜 IN THIS WORLD 〜

息子に未来を

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ヨーロッパの都市を初めて歩いた時、気づいたことがあります。
それは、想像以上に、アジアやアフリカからの移民が多いということでした。
もちろん、就労ビザを取得して、働いている人も多いのでしょうが、
難民として、ヨーロッパで暮らすことを選択した人や、
何らかの事情で、不法滞在となった人もたくさんいたはずです。
どんな理由であれ、国を捨てざるを得なかった人たちが、
ヨーロッパには、数多くいるということは、すぐに実感できました。

しかし、それらの人々が、どんな思いで国を捨て、
どういうルートで、現在の土地に定着したかということは、
当時、まったく知ることがなかったし、関心もなかったと思います。
それが、一人でアジアやヨーロッパを旅するようになり、
実際に移民として、国を渡り歩いていく人々と出会って初めて、
その実態を、少しずつ、知るようになりました。

ラマダンについて教えてくれた、中東出身の男性は、
結婚することで、アメリカ国籍を得、それから少しずつ、家族を呼び寄せていました。
(9.11以降、音信はとだえました。)
ヨーロッパの共産圏出身の夫婦は、一度アメリカに就学ビザで入国し、
学位をとってから、日本で数年働き、最終的に、オーストラリア国籍を得て、
家族を呼び寄せ、やっと落ち着いた暮らしをしています。

それぞれの一族を背負った、流浪のストーリーは、
極東の島国で、のほほんと暮らしている私には、驚くようなことばかりでした。
実際に、国籍を得るまでの書類の山との格闘と、
バカバカしくなるような政府役人との交渉は、呆れるほどひどかったし、
文化の違い、言葉の問題、差別などで心身を病み、夢と自由への渇望も消え、
故国へもどった者もいれば、 不法滞在を選び、音信不通になった友人も何人かいます。

今回、紹介する映画、マイケル・ウィンターボトム監督の、「イン・ディス・ワールド」は、
パキスタンの難民キャンプで育った、15歳ぐらいの孤児の少年、ジャマールと、
彼のいとこの20代前半の青年、エナヤットの、アフガン難民二人が、
希望のある未来、ロンドンを目指して、6ヶ国6400キロを移動する ロードムービーで、
ここにもまた、知ることのなかった難民の命がけの旅が、映像に刻み込まれていました。

この二人を演じる少年と青年は、実際、パキスタンの難民キャンプで見出された二人です。
脚本もほとんどなく、彼らの大まかな性格と、状況だけが与えられるだけで、
セリフのすべても、彼ら自身に自由に語らせたそうです。
その二人の旅を、デジタル・カメラで追いかけていくのですが、
臨場感あふれる映像は、まるでドキュメンタリーのような仕上がりとなっていて、
いつの間にか私も、彼らの視線で、過酷な旅を体験しているのでした。

難民キャンプから、一歩も出たことのない彼らが頼りとするのは、
密航手配業者、"運び屋"と呼ばれる人々です。
まず彼らは、身分証明書と、次の場所の電話番号を手に、バスに乗り、
クエッタという町に到着します。
そこでまた、言われた通りに電話をかけ、指定の場所に移動するのです。

翌朝、外を見ると、山には雪がかかり、美しい風景が目の前にありました。
思わず15歳の少年ジャマールが、無邪気につぶやきます。
「いい所だね」
人まかせの危険な旅にもかかわらず、彼らにとってこの旅は、
生まれて初めての冒険でもあり、 冗談を言い合いながら、旅を続ける姿に、
こちらの胸も高鳴ります。

しかし、すぐに砂埃の舞う、砂漠地帯に突入し、
国境近くでは、検問にひっかかり、兵隊にはウォークマンを取り上げられ、
荷物運びを手伝わされたり、両替を強制されたりと、
目の前に現れる人間を、本当に信じていいのかどうか、
毎日、毎日、真剣勝負の日々を続けていくと、 気持ちは重く、沈んでいくのです。
都会に入ると、世話人はマフィアなどが関わってくるため、
難民は、「安く使える労働者」、あるいは「荷物の一つ」といった扱いで取引され、
いよいよ悲惨な状況へと、足を踏み出していきます。

見知らぬ土地を歩き、新鮮な驚きを体験することと、
死と隣り合わせの密入国という狂気の間を、
彼ら二人が、行ったり来たりするのを、共に体験するうちに、
違法であることとか、政治的な問題がどうした、などという理屈は消え、
たくましく生きようとする、彼らのエネルギーのひたむきさに、
ただただ胸を打たれ、彼らの未来を祈るしかありませんでした。

避けられない運命を生きるしかない人々が、同じ地球上に現実にいる。
その姿を描いた、深く静かな衝撃を、 ぜひ、その目と耳で、体験してください。

                                             2003.12.17.

                                    −writing by 吉田 妃呂−

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