◆◇◆Save Our Souls 我らが魂を救え!◆◇◆


<<夕映えの道>>
〜 Rue du Retrait 〜

夕映えの道

↑オフィシャル・サイトは、ここをクリック!

上映会場は、オフィシャル・サイトをチェック!
  

何の経験もないけれど、情熱と好奇心でいっぱいだった、
10代後半から20代にかけての、若かった頃の私。
身体や心に、たくさんの脂肪をたくわえ、疲れ切った顔で生きている大人たちを、
さんざんバカにして、あんな風にはゼッタイにならない!と、
大きな声で吠えていたわりに、心はいつも不安だったあの頃。
あの愚かで若かった日、自分が30歳を超える姿なんて、
これっぽっちも想像できませんでした。

なのに、あっという間に30歳も越え、確実に脂肪をたくわえ、
疲れた顔だって、たぶんしている中年期に達してしまった今は、
自分の老後を、実感は湧かないまでも、 想像は出来るようになりました。
結婚もしていないし、子供もいない。
安定した仕事もないし、財産も貯金もないってことは、
この映画の主人公の一人、マドおばあさんの、
みすぼらしく孤独な生活に、なるかもしれないってこと・・・?

マドは、パリ20区にある、ルトレ通りの古く小さなアパルトマンに、
一人でひっそり暮らしています。
このアパルトマンには、トイレもフロもなく、小さなキッチンがあるだけ。
寝る場所はソファの上で、カバーをかけるだけだし、
彼女の話し相手は、愛想の悪い猫一匹だけ。

心を閉ざしたまま、わびしい老後を過ごしているマドの前に、
今の私と同じ視線で、彼女を眺める中年の女性が登場します。
その独身女性、イザベルは、私とはまったく違い、
広告関係の小さな会社を経営している、キャリア・ウーマンです。
離婚歴はあるけれど、仕事も順調で、大きく快適な家に住み、
若く美しい恋人もいるし、 精神的にも、肉体的にも、充実した日々を送り、
思い描いてきた夢を、しっかり実現している、自立した女性。

そんな彼女が、ドラッグストアで見かけた、ヒステリックな老女が気になり、
車で家まで送り、マドのあまりに寂しい暮らしぶりに驚き、同情することで、
いつの間にか、世話をし始めるようになるのです。
世代も考え方も、背負ってきた人生も、まったく違う二人が出会い、
少しずつ心を寄せるようになった理由は、分かりません。

私に思い当たるのは、 イザベルが中年期を迎え、哀れな老人を見て、
心にざわめきが起きたのだろう、ということぐらいです。
私もそうですが、これからやってくる「老い」を視野に入れ始めると、
胸にチクリとした痛みを感じながら、気づくことがあります。
それは、『山は登る時よりも、下る時の方がこたえる』、ということ。

若い頃は、登る辛さしか知らないけれど、
下りの怖さは、経験してみないと、その残酷さに気づけないはず。
どんなにお金があろうと、仕事で成功しようと、老いるということは、
それだけで、とらえどころのない闇の中に落ちていくようで、
非常に不安な気持ちにさせるのです。

だからといって、マドのように、頑なに心を閉ざしていていいのだろうか?と、
まだまだ若いイザベルは、ひたむきに、老女の心のドアを叩き続けます。
時には、いつも冷静な彼女が、腹を立て、イラ立ち、怒鳴りながら。
そして、イザベルは知ることになります。
頑固なマドにも、若い頃があり、なかなか有能な、帽子職人だったこと、
結婚生活は破綻し、一人息子を奪われたこと、それがトラウマとなり、
人を信じられず、ふつうの人間関係を拒絶してしまうこと、などなど。

マドの人生を深く知っていく過程で、なぜかイザベルは、
不思議と、心が安らいでいくのを感じるようになります。
当然のことながら、マドも、今まで感じたことのない幸福を手にします。
一人は、自分のためではなく、誰かのために生きる喜びを感じ、
もう一人は、誰かが、自分のためにそばにいてくれる喜びを得るのです。
そんな二人の間に、<老人と中年女>、という世代の違いは、もうありません。
人と人が出会って生まれる、豊かな時間だけが、二人をやさしく包んでいくのです。

人は、我がままで利己的なくせに、
なぜか、誰かの承認なしには、自分を信じられない生き物です。
人とかかわり、「あなたがいてくれて、うれしい」そう言ってくれる人と、
いっしょに歩いていくことでしか、自分の人生を強く肯定できません。
だからもし、そういう友人なり、家族なりをもてないとしたら、
若かろうと、老いていようと、どれほど孤独で憂鬱な毎日となることでしょう。

中年期という折り返し地点に立って、そろそろ、自分が老いていくことも、
きちんと考えないと、ならないのですが、
「よく老いる」ために、たくさんの準備をするよりも、
「あなたがいてくれて、うれしい」と、言い合える人といっしょに、
今日という一日を生きることに、心を傾けた方が、
きっと私なりの、幸福な老いに、近づけるような気がするのです。

                                             2003.12.8.

                                    −writing by 吉田 妃呂−

戻る




[HOME]
MAIL ←吉田妃呂への
メールはこちらへ!